武田百合子とサチ子

ブログを始める。始める理由は「なんとなく」としておこう。内容は、読んだ本のこと、これから読む本のこと、読みたい本のこと、たまに行く落語のこと、物欲の奴隷な様子、くだらない考え、そんな感じになると思う。

福田利子『吉原はこんな所でございました 廓の女たちの昭和史』読了(10日)。吉原の引手茶屋、松葉屋の女将の一代記。おもしろかった。3年くらいこの本を探していたが、先月にちくま文庫で復刊しているのをめでたく発見。えらいね、筑摩書房

会社帰りにウンベルト・エーコ『バウドリーノ』を買うつもりだったので、行きに読む本として、武田百合子犬が星見た ロシア旅行』を鞄の中に入れて出かける。何度読み返したかわからないけれど、やっぱり同じところでぐっときてしまう。

たとえば、最後の最後、日本へ帰る飛行機の中で。(引用するのに最後のページからっていうのはどうなのかとも思うけれど)

北極の海というのは氷ばかりだった。陸地は苔か黴みたいにあお黒く見えた。ただ、そうなっているだけのところだった。人がいない大自然はしんしんと寂しい。
「スパシーバ(ありがとう)」不意に竹内さんが盃を上げた。
「パジャールスタ(どういたしまして)」すぐ主人も盃を上げる。話が続く。とぎれる。竹内さんは「スパシーバ」と盃を上げる。「パジャールスタ」恭々しく主人が返す。私は浅く眠り、ときどき覚める。
「スパシーバ」
「パジャールスタ」
蜿蜒と飲んでいる二人を眺めて、また眠る。

ここを読んで思い出すのは、坂口安吾「青鬼の褌を洗う女」だ。

私は谷川で青鬼の虎の皮のフンドシを洗っている。私はフンドシを干すのを忘れて、谷川のふちで眠ってしまう。青鬼が私をゆさぶる。私は目をさましてニッコリする。カッコウだのホトトギスだの山鳩がないている。私はそんなものよりも青鬼の調子外れの胴間声が好きだ。私はニッコリして彼に腕をさしだすだろう。すべてが、なんて退屈だろう。しかし、なぜ、こんなに、なつかしいのだろう。

武田百合子とサチ子の共通点は、よく眠るとてもいい女ってところか。

私もこれから寝て、明日からはエーコ読む。10年ぶりのエーコの小説。