『不思議のひと触れ』他

シオドア・スタージョン『不思議のひと触れ』読了(15日)。

不思議のひと触れ (河出文庫)

不思議のひと触れ (河出文庫)

おもしろくって読んでいる間中、幸せを感じる。前に『輝く断片』(こっちの方が後に出てるはず)を読んだときはおもしろいけれど、陰気な作家だと思っていたのに。が、なんだろうこの短編集から溢れる楽しさは!幅が広すぎる!(もちろん暗い話もあるんだけれども)気に入ったのは「影よ、影よ、影の国」「不思議のひと触れ」「ぶわん・ばっ!」。「ぶわん・ぱっ!」はジャズを聴いて腰が浮いた経験のある人だったら絶対に楽しい。私は初めてジミー・スミスを聴いて腰がピョコンとなったのを思い出した。

■坂下昇編訳『ホーソーン短編小説集』読了(18日)。

ホーソーン短篇小説集 (岩波文庫)

ホーソーン短篇小説集 (岩波文庫)

期待していた以上におもしろかった。「モンキービジネス ポール・オースター号」でオースターがホーソーンからの影響を語っていたので読んでみたのだ。
いくつか気に入った短編はあるけどれども、「ウェークフィールド」(オースターの『幽霊たち』に出てくる)のすばらしさは飛びぬけ!だ。
ある男が妻に何日か留守にするよ、と言って20年姿を消す。しかもその20年間、男は妻の住む(男もかつて一緒に住んでいた)街からすぐ近くのアパートに住み、彼のいない生活を送る妻を眺め続ける。
この小説には「なんで?」「どんな?」「何を?」「どうして?」の部分は書かれない。なんで主人公は家を出たのか。なんで主人公は妻の家から近いところで妻を眺め続けたのか。主人公はどんな気持ちだったのか。妻は何を思っていたのか。なんで妻は20年ぶりに帰ってきた夫を受け入れたのか。
しかし書かれていない、だからこそ私はウェークフィールドのことを考え続けてしまう。イシグロの『遠い山なみの光』を読んだときにも感じた「書かれないこと」でいや増す存在感。すごい小説。