『精霊たちの家』

イサベル・アジェンデ『精霊たちの家』読了(23日)。

精霊たちの家

精霊たちの家

「どこの家庭にも、知恵遅れの子や頭のおかしい人間はいるのよ」その頃は編み針を見なくても編み物ができるようになっていたクラーラは、手だけを熱心に動かしながらそう説明した。「時々そんな子のいない家庭も見かけるけど、ほんとうは恥ずかしいから隠しているだけなの。お客さんに見つからないよう、いちばん奥の部屋に閉じ込めているんだけど、あの子たちだって神様がお創りになったんだから、なにも恥ずかしがることはないのよ」
「でも、この家にはそんな人には(※原文ママ)いないでしょう」とアルバが尋ねた。
「ええ、いないわ。この家には本当に頭のおかしい人間はいないけど、でもみんなどこかおかしいのよ」

素晴らしい!

19世紀末からチリ革命までの百年史を背景にした(「みんなどこかおかしい」)ある一家の物語。とにかく最初から引き込まれて、読み終わるのが悲しかった。

「南米文学」なマジックリアリズムなところもかなりあるけれども(精霊たちが家の中を歩き回ったり、塩壷が動いたり、椅子ごと浮いたり、未来が予言できたり)現実の延長という感じで、たとえば『百年の孤独』の黄色い蛾をまとっている男みたいな現実から浮いたような感じがしないところもおもしろい(いやもちろん、『百年の孤独』も大好きです)。

ありとあらゆる悲惨なことも語られるけれど、クスッとしてしまうところもたくさん。どのキャラクターも、共感できるできないは別にして(というかほとんどの登場人物に対して感情移入できない)「生きている」感じがした。長い話ではあるけれどびっくりするくらい読みやすいのもいい。一応読み始める前にメモ帳を用意したけれど、結局使わなかった。(クラーラに感謝)

最後に、木村榮一先生の『ラテンアメリカ十大小説』に大感謝。あれを読まなかったら『蜘蛛女のキス』も『緑の家』もこの『精霊たちの家』も読んでないんじゃないかと思う。