トマス・ピンチョン『競売ナンバー49の叫び』

トマス・ピンチョン『競売ナンバー49の叫び』読了(26日)。

競売ナンバー49の叫び (Thomas Pynchon Complete Collection)

競売ナンバー49の叫び (Thomas Pynchon Complete Collection)

それはもう、形のない魔力というしかないのであって、体に感じる恐怖と女性的な狡猾さをもって対するしかない。その作動の仕組みを理解し、磁場の強さを測定し、力線の数を数えようにも無理なのだ。迷信に頼るか、刺繍みたいな便利な趣味に走るか、さもなくば気を違えるか―それとも、DJと結婚するか。だって、他に何ができる―塔が世界を覆っていて、救いの騎士も魔法を打ち破れないとしたら?

ここらあたりからなのだ。物事が奇妙な具合になってくるのは。冷気がそっと撫でるように、明瞭だったはずの言葉がぼやけ始める。

最高におもしろかった!

筑摩書房版でも読んでいるけれど、やっぱりすごい。よく知っていると思い込んでいる世界や人が別の何かに侵食され、消滅していく様にはゾクゾクさせられる。何もかもが怪しく見えてくるが、それが真実なのか、死んだ昔の恋人が仕掛けた悪趣味な冗談なのか、エディパの妄想なのか、どこまで読んでもどの可能性も捨てきれない。おかげで読み終わった瞬間にまた最初から読み直したくなってしまった。

あと、ピンチョンを読んでいると、一体どこに連れて行く気だ、そしてここはどこだ?お前は突然何を言い出すんだ?とひとり途方に暮れながら読むことになるけど(そしてそのことが超楽しくもある)、『競売ナンバー49の叫び』では主人公エディパと一緒に困惑できるというのが他のピンチョン作品とは違う楽しさだと思った。エディパの目を通してピンチョンの世界を一緒に巡れる、というか。なので、ピンチョン初めて読むぜっていう人は、ここから入るのがいいんではないかと。