『どうして僕はこんなところに』から

なんだかすごく好きな文章だ。

イギリスの画家ハワード・ホジキンの描く色鮮やかな絵画は、基本的に自伝に近く、勇壮華麗であると同時に不安に満ち、現代美術のどんな既成の範疇にも収まらない。
七歳で画家になろうと決意し、十七の頃には、のちの発展を決定づける一つの作品を完成させていた。今や齢五十に近づいた彼は、ごま塩頭のがっしりとした小男で、いつ見ても真っ赤な顔をしている。まさに赤色の熾天使セラフィム)そのものだが、本人は醜く見えると気に病んでいる。口は堅く結ばれもすれば、官能的にもなる。その微笑みは人を虜にするかと思えば、冷水を浴びせもする。通りでは腕を振って歩き、つむじ風にぶつかったかと思わせる。数年前にあやうく死にかけて、いくらか落ち着いたものの、ますます思わぬわき道にそれやすくなった。喝采を待ち望む一方、世間から忘れ去られたいと切に願っている。美しい部屋に住もうと計画はするが、混沌たるがらくたに囲まれている方がはるかに幸せそうだ。私と彼は二十年来の付き合いで、喧嘩もさんざんしてきた。私の親友の一人である。 
(ブルース・チャトウィン『どうして僕はこんなところに』「3 友人たち ハワード・ホジキン」)