ブルガーゴフ『巨匠とマルガリータ』

久しぶりに本の感想を。ブルガーコフ巨匠とマルガリータ』読了(21日)。

巨匠とマルガリータ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-5)

巨匠とマルガリータ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-5)

とにかくすごい!傑作なんて言葉じゃ生ぬるい。

モスクワにヴォラントと名乗る悪魔が現れさあ大変。作家の首は吹っとび、詩人は発狂、女は素っ裸で箒にまたがり空を飛び、愛する男を救おうとする…。悪魔たちのよくわからない魔術によってとんでもないことが次々起こる(「悪魔の大舞踏会」の素晴らしさよ!)テンションの高い物語がまず楽しい。あとはなんといってもヴォラントとその手下たちのキャラクター。特にでかくてしゃべる黒猫が好き。

そんな調子で、最高、読み終わりたくないなんて思いながら楽しんでいたらこんな場面が出てくる。ヴォラントが巨匠の書いた小説を見せてくれ、と言うと…

「残念ながら、お見せできないのです」と巨匠は答えた。「暖炉で燃やしてしまったからです」
「失礼ですが信じられませんね」とヴォラントが答えた。「そんなはずはない。原稿は燃えないものなのです」p.428

完全に不意打ちを食らってじーんとしてしまった。ブルガーゴフはこの作品を発表のあてもなく晩年に書き続けていたそうだ。そして彼が亡くなった後、その「原稿」が本として、しかも日本語に訳されて私たちの手元にあるのだから、そう、確かに原稿は燃えないものらしい。

あとは気に入ったところをご紹介。

「屋上に姿を現すなり、愚かな真似をしたが、それがどういうことが言ってやろうか、その話し方が愚かだというのだ。まるで影を、また悪を認めないようではないか。こういう問題を考えようとはしないのか、もしも悪が存在しないなら、おまえの善はどうなる、もしも地上から影が消えてしまうなら、地球はそういうふうに見えるだろうか? なにしろ、影は物や人間があってこそできるものではないか。ほら、ここに剣の影がある。だが、影は樹木や生き物からもできる。さえぎるものとてない光を楽しみたいという空想のために、あらゆる生き物を地上から一掃し、地球全体を丸裸にしてしまいたいのか? お前は愚か者だ」p.534

「何をおっしゃるのです? だって、あなたのことを恋人は巨匠と呼んでいるではありませんか、あなたは思慮のある人です、それなのに、どうしてあなたがたが死んだりできるのでしょう? 自分が生きていると実感するためには、どうしても、病院用のシャツとズボン下を身につけて地下室に閉じこもっていなければならないのでしょうかね? そんなのは滑稽です!」p.552

まあ全部悪魔の言うことなんですが、なんでこいつらはこんなにかっこいいこと言うのでしょうか。